ページビューは減少しているが、AIの影響は複雑だ

この記事は、INMA.org に掲載されたものです。
「AIの台頭によってメディアのトラフィックが激減している」というニュースが巷に溢れています。しかし、数十億におよぶページビュー(PV)の実際のデータを分析してみると、実態は世間のパニックが煽るものよりも複雑であり、かつ今後のヒントに満ちていることが分かります。
Chartbeatでは、数千のニュース・メディアサイトにおける毎月数十億ものPVを追跡していますが、私たちが目にしているのは「市場の崩壊」ではなく、「アクセスの再分配」です。この違いを正しく認識できるかどうかが、目先のノイズに一喜一憂して終わるか、それとも実際に訪れる未来を見据えて布石を打てるかの分かれ道となります。
検索、ダークソーシャル、そしてAIをめぐる最新の全体像について、詳しく解説します。

全体のトラフィックが壊滅的に激減したわけではない
まずは、誰もが最も懸念する数字である「総ページビュー数」から見ていきましょう。
Chartbeatのネットワーク全体における週平均のページビュー数は、2024年の約76.4億PVから2025年には71.9億PVへと減少しました。約6%の減少です。マイナスであることは確かですが、これは毎年の通常の変動範囲内に十分に収まっています。
そもそもトラフィックは、世界的なイベントの周期によって変動するものです。2024年はニュース業界にとって異例の「大豊作の年」であり、米国、ブラジル、インド、インドネシア、英国など、世界中で10億人以上の人々が投票を行う大規模な選挙が重なりました。
2025年は政治的なビッグイベントという点では比較的静かな年でしたが、2026年はすでに冬季オリンピックやワールドカップ、米国の連邦中間選挙などが控えており、世界的にトラフィックが大きく伸びる兆しが見えています。
では、全体のアクセス数が落ち込んでいないとすれば、一体何が問題なのでしょうか。
検索(SEO)というチャネルだけが、実質的に機能不全に陥っている
トラフィックの流入元(ソース)をチャネル別に分解してみると、サイト内回遊(内部)、ソーシャル、直接流入、外部リンクといった主要なチャネルは、過去2年間ほぼ横ばいで安定しています。唯一の例外が「検索」であり、ここだけが大幅に減少しているのです。


検索流入の2大リファラー(流入元)を詳しく見ると、双方ともに大きく落ち込んでいます。Google検索からのPVは2024年12月から2025年12月までの1年間で34%演少し、同期間にGoogle DiscoverからのPVも16%減少しました。
特に、小規模なメディアほど深刻な打撃を受けています。
・大規模サイト(1日あたり10万PV以上):–22% ・中規模サイト(1日あたり1万〜10万PV):–47% ・小規模サイト(1日あたり1,000〜1万PV):–60%
AIからの流入は、検索の落ち込みを補えているか?
ここで当然、次のような疑問が湧くでしょう。「ChatGPTやPerplexityのようなAIツールが、検索の代わりにトラフィックを運んできてくれているのではないか?」
結論から言えば、「現時点では全く補えていない」となります。
確かにChatGPTからの流入数は前年比で200%以上も増加しており、右肩上がりの成長を続けていることは間違いありません。しかし、AIチャットボット経由のアクセスは、Chartbeatのネットワーク全体で見ても、いまだ総PVの1%未満にすぎません。

現在の規模感では、AIは検索トラフィックの代替としては機能しておらず、あくまで「今後注視し、備えておくべき新興チャネル」という位置づけです。
また、AIが(回答として)ユーザーに提示しやすいコンテンツの傾向にも特徴があります。ニュース・メディアサイトはAIプラットフォームから最も多くの総PVを獲得しているものの、1記事あたりのユーザーの回遊(エンゲージメント)は極めて低いのが現状です。住まい・ガーデニング(10.6 PV)や健康(8.6 PV)、科学・教育(8.5 PV)といったジャンルに対し、ニュース・メディアは1記事あたり平均わずか4.8 PVにとどまります。
ユーザーは、AIが出した回答の事実確認や背景を知るためにニュース記事のリンクを踏むことはあっても、そこからサイト内をあちこち読み進めることはありません。答えを確認したら、すぐに離脱してしまうのです。
記事のトピック別で見ると、経済・ビジネス・金融のコンテンツがAI経由で700万以上のPVを獲得して群を抜いており、次いで科学・技術(197万)、環境(192万)と続きます。
ここから見える傾向は一貫しています。AIはニュースを読むためのツールというよりも、一種の「リサーチアシスタント」として機能しており、ユーザーをハウツーガイドやまとめ解説、信頼性の高い専門資料へと誘導しているのです。速報ニュースだけでなく、長期間にわたってユーザーの課題を解決する「エバーグリーン(普遍的)なコンテンツ」をバランスよく発信できているメディアこそが、このチャネルの成長の恩恵を受けられるでしょう。
検索の穴を静かに埋めている、2つの隠れた流入元 検索流入が減少する一方で、着実にシェアを拡大している2つのチャネルが存在します。
一つ目は「内部トラフィック(サイト内回遊)」です。これはもともとメディアサイトにとって最大のPV源でしたが、さらに拡大を遂げており、2024年の約38%から、2025年11月以降は約41%へと上昇しています。 内部リンクからのPVが増えるということは、サイトを訪れた読者が「さらに他の記事も読もう」と自発的に選択してくれている証拠です。これこそがユーザーがファン化(定着)している何よりの証拠であり、メディア側が自力で最もコントロールしやすい領域でもあります。
二つ目は「ダークソーシャル」です。これは、メールやアプリ、LINEなどのメッセージツール経由での共有を指し、アクセス解析で参照元(リファラー)が残らない非直接的な流入のことです。この割合が2024年の全トラフィックの約7%から、2026年1月には10%へと成長しています。 データの追跡が難しいチャネルではありますが、ここには非常に価値のあるシグナル、すなわち「読者の純粋な熱意」が現れています。プライベートなチャネルでわざわざ記事のURLを共有するのは、「この内容をどうしても相手に読んでほしい」という強い動機があるからです。
メディアが取るべき今後の戦略 ・トラフィックは消滅したのではなく、移行している: 全体のPVは前年比でわずか6%の微減であり、想定の範囲内です。検索(SEO)経由のアクセスは大きく減ったものの、内部回遊とダークソーシャルがその穴を埋めています。業界の終焉と悲観する必要はありませんが、アクセス獲得の前提となる土台は確実に変化しています。
・AI時代、パブリッシャーの「サイト規模」格差が浮き彫りに: 大規模サイトの検索流入が22%減であるのに対し、小規模メディアは60%減という大打撃を受けています。今後は、ブランドとしての認知度や、読者と直接つながる関係性が生き残りの絶対条件になります。小規模メディアはSEOだけに依存するのをやめ、メルマガの発行や、特定のニッチジャンルでの権威性の確立など、ファン(ロイヤルユーザー)作りに注力すべきです。
・AIが評価するのは、速報性よりも「情報の深さ」と「実用性」: 総トラフィックの1%未満とはいえ前年比200%で伸びているAIからの流入は、その場限りの速報ニュースよりも、息が長く課題を解決する実用的なコンテンツを好みます。これからの時代は、日々変化するニュースサイクルを追いかけつつも、時代に左右されない普遍的な価値(ストック型コンテンツ)を両立できるメディアが生き残ります。
・サイト内回遊の強化こそが、最大の成長戦略: 内部トラフィックは、現在最も規模が大きく、かつ最も伸びている流入源であり、メディア側が100%コントロールできる領域です。レコメンド(関連記事一覧)の精度、サイトの表示速度、コンテンツの網羅性といった「サイト内体験の質」を高めることこそが、これからの時代にメディアが成長できるか衰退するかの明暗を分けます。