三本目の柱をどう建てるか — 世界のパブリッシャーの収益で「その他」が25%に達した

収益の多角化という言葉は、たいてい何も決めていないときに使われます。広告が減ったから他も、という話は、どの会社でも10年前から出ています。
その状況が、数字の上で変わりました。世界のパブリッシャーの収益構成において、印刷でもデジタルでもない「その他」が、すでに全体の4分の1に達しています。
数字:5年で13.2%から25.4%へ
WAN-IFRA の World Press Trends Outlook 2025-2026 は、66カ国の170人を超えるメディア経営層の回答をもとにした調査です。そこで示された収益構成は次のとおりです。
| 収益の柱 | 構成比 | 2021年 |
|---|---|---|
| 印刷(部数+広告) | 43.6% | 56.2% |
| デジタル(課金+広告) | 31% | - |
| その他(イベント、B2B、EC、提携など) | 25.4% | 13.2% |
5年で印刷が約10ポイント以上落ち、その他がほぼ倍増しました。同調査はこれを「三本柱モデル」の台頭として整理しています。
「その他」の内訳では、イベントを挙げた回答者が32.2%でもっとも多く、B2B 向けのサービスやコンテンツが16.1%、プラットフォームとの提携が16.1%と続きます。
なお同調査では、投資の優先領域として AI と自動化を挙げた回答者が93%に達しています。三本目の柱を建てる話と、AI で既存業務のコストを下げる話は、同じ経営の場で並行して進んでいるということです。
「その他」は寄せ集めではない
この25.4%を「広告と課金以外の雑多な収入」と読むと、打ち手を誤ります。
イベント、B2B サービス、EC、提携。これらに共通するのは、読者との関係を、記事の閲覧以外の形で換金しているという点です。逆に言えば、換金できるだけの関係がない媒体は、この柱を建てられません。
- イベント:誰が来るかを名前で把握できている関係
- B2B:業界内で「あの媒体は詳しい」と認識されている専門性
- EC:媒体の推薦を信用して買う関係
- 提携:他社が欲しがる読者層かデータを持っている状態
つまり、この柱は独立した新規事業ではなく、既存の読者関係の再利用です。ここを取り違えて、まったく別の顧客に向けた新規事業として立ち上げると、たいてい続きません。
順序が重要な理由
三本目の柱を建てる順序について、キメラとしての考えを述べます。以下は仮説を含みます。
第一に、参加者の名前を持つことが先です。イベントも B2B も EC も、匿名の月間ページビューからは立ち上がりません。ニュースレターの登録者、会員、イベントの参加者。名前と連絡先を持つ関係の総量が、そのまま三本目の柱の上限になります。
第二に、単発ではなく反復で設計することです。イベントを年1回の大型企画として設計すると、企画・集客・運営のコストが毎回ゼロから発生します。小さくても定期開催のほうが、運営が習熟し、参加者が固定し、スポンサーの提案もしやすくなります。
第三に、粗利ではなく稼働で判断することです。イベント事業でよくある失敗は、粗利は出ているのに、編集部の稼働を大量に食っていて、本業の記事本数が落ちるというパターンです。損益計算書には現れないコストなので、判断の前に人時で見積もる必要があります。
第四に、B2B は属人化を前提に設計することです。B2B サービスは、その領域に詳しい特定の記者や編集者の知見に依存して立ち上がります。それ自体は悪くありませんが、その人が抜けたら止まる構造のまま売上を積むと、後で身動きが取れなくなります。立ち上げの時点で、知見をどう形式知にするかを決めておくべきです。
日本の地域メディアにとって
地域のメディアは、この三本目の柱について、全国メディアより有利な条件を持っていると考えています。
理由は、関係の密度です。読者と広告主と地域の事業者が近く、実際に顔が見えます。イベントの集客も、B2B の営業も、EC の商品調達も、既存の関係の上に乗せられます。全国規模で同じことをやろうとすると、この密度は作れません。
一方で、不利な条件もあります。人が少ない。三本目の柱は、記事を書く仕事とは異なる能力を要求します。イベント運営、商品開発、法人営業。これを既存の編集人員の兼務で回そうとすると、上で述べた稼働の問題に直撃します。
私が関わっている地域の事業でも、ここが最大の制約になっています。やれば伸びるとわかっていても、やる人がいない。だから、外部の事業者と組む形か、極端に小さく始めて運営を型にしてから広げる形か、どちらかを選ぶことになります。
印刷43.6%という数字の読み方
最後に、この調査でもっとも見落とされやすい数字に触れておきます。印刷が依然として43.6%を占めている、という事実です。
減りつづけていますが、まだ最大の柱です。「もう紙ではない」という言い方は、少なくともグローバルの平均値では正確ではありません。
三本目の柱を建てるための投資原資は、多くの場合この43.6%から出ています。つまり、印刷の収益を無理に急減させながら新規事業を立ち上げるのは、燃料を捨てながら加速するようなものです。落ちていく柱をどう緩やかに落とすかと、新しい柱をどう建てるかは、同じ計画の中で扱われるべき問題です。