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デジタルクローンが生み出す新たなメディア

デジタルクローンが生み出す新たなメディア

Ximera Media Next Trends #53|Ikuo Morisugi| @Oct 3, 2023

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Illustration by UnDraw

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第53回となる今回は「デジタルクローンが生み出す新たなメディア」を取り上げます。

本連載第50回でも取り上げたLLMベースサービスの進化が現在でも引き続き起こっています。毎日新しいトピックが飛び交っている状況で、メディアに関してもAIによって新たな形態が生まれつつあります。

AIによって各個人が持つ悩みや課題は、調査・要約・データ抽出によってプロンプトベースで解決できるようになってきました。ChatGPTが得意とするような領域です。これは汎用AIが汎用的な課題に対して提供しているソリューションになります。

一方でより専門性が高かったり、特定の人にしか知見がない場合においては、汎用AIはやや不向きです。その領域をAIで解消するには、専門領域が得意な言語モデルやツールとの組み合わせが必要になってきます。

そうした際に生まれてくるのがデジタルクローンという考え方になります。デジタルクローンは特定個人の発する言葉や行動をAIに学習させてデジタルな存在としてコピーする(まさにクローン)という概念になります。

これにより、特定個人の言葉や行動のデータをベースにAIが動的に特定個人のように振る舞えるため、今まで人間対人間の限られていた範囲でしか1to1の対応ができなかったことが、AIによるシステム化でスケールをもって1to1の対応ができるようになります。

デジタルクローンによってスケールして1to1メディアが作られる 出典:
デジタルクローンによってスケールして1to1メディアが作られる 出典: X(@daraladje)

これまでは、例えばInstagramなどソーシャルメディアで不特定多数にクリエイターが画一的なコンテンツを配信していました。これに対してデジタルクローンであればフォロワーの一人一人に対して、個別にパーソナライズされたコンテンツを圧倒的なスケールでダイナミックに配信できる変化が起こります。

この変化はこれまでメディアで成し遂げられてなかった1to1メディアという新たな形態を作る可能性があります(デジタルクローンを作ること自体まだ法的整備が追いついていないことや倫理的に認められるかどうか議論の余地は当然ながらあります)。

こうした状況に対して、デジタルクローンのビジネス化であったり、そのデータの下地を獲得を図ろうとしているスタートアップが出てきています。本稿では具体的な事例を取り上げ、どのように実現させているのか見ていきたいと思います。

1to1のコミュニケーションを可能にするデジタルクローン : Delphi

「その人があるテーマについてどう考え、何を話すか」は古くからあるコンテンツであり、例えばなにか困ったことがあれば、長老、ご意見番、先輩、友人、先駆者などに有益なアドバイスを求めたり、困ったことがなくても自分とは別の視点での考えを学んだりすることができます。つまり、興味がある人が発信する情報をコンテンツとして消費することが人間の欲求として存在しています。

現代は、政治家、インフルエンサー、セレブリティ、成功スタートアップの創業者から身近な友人、先輩、恋人、よく通うお店の店主まで、あらゆる人が情報発信をしているため、人々はつながりのある人に話を聞くだけでなく、膨大な情報の中から検索したり、ソーシャルメディアのフィードを見たりして、自分のニーズにあっているコンテンツを見つけることで、より情報消費の満足度を上げようとしています。

一方で、自身とつながりのない人に直接1to1で話を伺うのは簡単ではありません。人脈を辿ったり、オンラインサロンに入って機会を伺ったりなど、相手が著名で忙しい人であればあるほど、社会的・物理的な制約がのしかかってきます。

この課題に対してAIによるデジタルクローンという形でアプローチしているのが、Miami発のスタートアップであるDelphiになります。Delphiは、トレーニングデータとして、テキスト、オーディオ、ビデオなど個人が発信しているデジタルコンテンツをインプットし学習させることで、その人がどのように考え発言するかを模倣するAIクローンを作ることができるプラットフォームを提供しています(現在は限定公開のみ)。

ChatGPTに「XXXXになりきって会話してください」といったプロンプトを与え、一時的になりきり会話を楽しむことができますが、Delphiはよりパーソナルなデータインプットに特化してAIに学習させ、永続的かつ実用的な「デジタルクローン」を作ることができます。

Delphi はすでに自社の AI ソフトウェアを使用して、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス、オッペンハイマー、ソクラテス、老子、アリストテレスや、存命および死亡したアメリカ大統領など数多くの有名人のクローンを作成しています。

Delphiによって作成されたデジタルクローンの例 出典:
Delphiによって作成されたデジタルクローンの例 出典: delphi

Delphiはコーチ、クリエイター、専門家、政治家、CEOなど、知的レバレッジの高い人々がデジタルクローンを作り、物理的な制約を取り払い他の人が利用できるように支援することに重点を置いています。ビジネスモデルはまだ確立されていませんが、こうしたデジタルクローンの作成とアクセスに対して課金するモデルが検討されています。

デジタルクローンは、故人も含め著名人や敬愛する人の有益な知見を動的に与えてくれるアーカイブにもなりますし、使いようによっては思い出に浸るために昔の友人、故人と再会する場にもなるかもしれません。

当然ながらDelphiのサービスにはリスクもあります。現状では、デジタルクローンの作成に制限がないため、ユーザがトレーニングや提供の仕方を悪用すれば、精度の高い詐欺を大規模に行うようなBotも作れてしまいます。嫌悪感をもつ人のクローンを作って、蹂躙するといったネガティブな使い方もありえます。悪用しようと思ったらさまざまなことができてしまうため、正式なサービスインに際しては何らかの制限をかけることが予想されます。

Delphiは2023年9月にFounders Fund、MVPなどが投資家として参加する270万ドル(約4億円)のシリーズB資金調達を実施し、正式サービスロンチへ向け準備を進めていると考えられます。

デジタルクローンのマストデータをアーカイブ : Rewind

我々は現在、PCやスマートフォンを介してテキスト、オーディオ、ビデオの入出力を行っています。デバイスで人間が文章を作成したり、ビデオ通話で音声とカメラ映像を共有したり、ブラウザで検索エンジンを介して調べ物をするなど、さまざまなコンテンツに関するアクションを起こしています。

こうした人間によるアクションと生成されたコンテンツは、今後人間をサポートしてくれるAIにとって非常に重要なデータとなります。Delphiのようなデジタルクローンを作る上でもマストなデータと言えます。インプットデータとしてAIにこうした人間のアクションやコンテンツを学習させることで、より個人を理解したり、自分の代わりに精度高くタスクを処理したりすることが可能になります。

一方でPCやスマートフォンで作られたすべてのコンテンツが既に利用可能なのかというと実はそうではありません。デバイス上で起こっているすべての人間のアクションは操作ログとして残されていますが、そこで生成されたコンテンツはデータ量が多すぎるためすべてがアーカイブされているわけではありません。人間が意図的にファイル保存したコンテンツは残っていますが、Google MeetやZoom通話はいつも録画されていない場合がほとんどですし、オンラインで画面共有で説明を受けた場合なども意図的にそのコンテンツをもらわないとデバイスやクラウドストレージには残りません。

この課題に対して、デバイス上に発生するあらゆるコンテンツを取得しアーカイブを可能にしているのがRewindになります。Rewindはデバイスの画面上で発生するユーザの動きをすべて取得し、タイムライン形式で過去いつどの時間にどんな画面を開いていたのか、どんな音声をインプットしていたか、聞いていたかなど入出力の操作とコンテンツをまるごとアーカイブしていきます。かつ、そのアーカイブをあとからいつでも検索できたり、タイムマシンのように曜日時間を指定してその場面にどんな画面や操作をしていたかを視覚的にも表示可能なデータを保管しています。

後から自分の過去の行動やコンテンツが視覚的にも検索できる 出典:
後から自分の過去の行動やコンテンツが視覚的にも検索できる 出典: Rewind

ここで重要なのが、デバイスには個人的なデータが大量に含まれているため、丸ごとクラウドにアップロードするというアプローチは取れません。そのためRewindは独自の圧縮技術で実用的なファイルサイズで上記のアーカイブをローカル保存できるソリューションを提供しています。また保存したローカルデータとOpenAIのAPIと連動させ、ユーザーが過去にどんなことを調べて、どんなことにインスピレーションを得たのか、あいまいな指示であっても、AIにより探し出すことができるようになっています。

Rewind自身はあくまで過去のアーカイブから必要な情報を探し出せる生産性向上ツールとして打ち出しているため、デジタルクローンと少し離れているような印象を受けるかと思います。しかし、Delphiのようにデジタルクローンとして自身の分身を作ったり、自身のことをより深く理解して適切な行動をAIソリューションとして提供する上で、Rewindがトラッキングしているデータは非常に重要なものとなりえます。現状はMac / iOS限定で提供されており、デバイスやチップセットの進化、提携やM&Aなどが必要になってきますが、いずれにせよスマートフォンやその他デバイスにも類似の機能が提供されることが予想されます。さらにRewindはAppleのXRデバイスVision Proにも提供することを表明しており、あらゆるデバイス上のデータアーカイブと記憶に関するソリューションの幅広い展開を狙っていると思われます。

Rewindは2022年11月にAndreessen Horowitzがリードする資金調達を実施後、2023年5月にNEAらからも資金調達も行い、注目度が高まっています。

おわりに

今回は「デジタルクローンが生み出す新たなメディア」についてとりあげました。

直近では、ChatGPTが合成音声・画像アップロードにも対応したことで、AIの「目」と「耳」が作られはじめていると言われており、AIの進化が続いています。

今回紹介したDelphiのデジタルクローンはあくまでAIの一つのユースケースですが、これまで人間の活動範囲外だった分野を一気に活動範囲内に推し進めるような強力な分野になりえます。デジタルクローンがメディアとして成立するくらいの規模となるかどうかは未知数ですが、大きく期待されるところです。

またRewindのようなデータアーカイブの分野についても、膨大に増え続けるデータをいかに効率的に残して、AIにフィードバックし続けるか、以前よりもさらに重要性が大きく増しています。

一方でデジタルクローンは倫理的・法的にも問題のある使い方が多数出てきてしまいやすい分野だと考えられます。極論AIを使った犯罪や騙しが横行するようなデストピアな世界も起こりえます。かつ、一度それが広がってしまうとなかなか取り戻しも利きません。この手の話に特効薬はないので提供側の配慮と法規制や社会倫理まで含めた問題として解決していくしかありません。

AIによるメディアビジネス的な価値と具体的に起こりうる暗黒面についても、参考になる材料をキメラでも今後もお伝えしていきたいと思います。

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